展 示
地獄と極楽 前編
地獄(じごく) |
|
|
「獄」は罪人を閉じ込めておく牢屋の意味で、「地獄」とは地下の牢屋のこと。
この世で罪を犯した者が死後に苦しみを受けるという場所で、死によって現世とは別の世界へ赴くという観念は、多くの宗教や神話において普遍的にみられる。
もともと原始宗教において、死者の住む世界は懲罰を伴うものではなかった。死の世界は地下にあり、暗く憂鬱なところではあるが、行き来が可能であると考えられていた。
ホメロスの『オデュッセイア』でも、主人公オデュッセウスが冥界を訪ね、亡母や戦友と語り合った後、また旅を続けている。
また『古事記』では、イザナギノミコトが黄泉の国に下り、妻のイザナミノミコトに蛆虫がわいているのを見て、逃げ帰るという場面がある。
懲罰的な地獄観が現れるのはゾロアスター教からで、さらに仏教、キリスト教、イスラム教以降になると、現世で宗教的な善行を積まなければ死後地獄に落ちるという教義が現れてくる。
「黄泉比良坂(よもつひらさか)」 / 青木繁 [画] 明治36年
腐ったイザナミに追われ、逃げるイザナギ。
明治期の日本の洋画家、青木繁(1882-1911)のデビュー作。
東京芸術大学蔵品図録. 絵画; 3 / 東京芸術大学編. -- 第一法規, 1979(1980).
資料番号:21351044 所在:1階C1 請求記号:708||47||4
|
|
|
仏教の地獄
仏教において、生死を繰り返す世界は天、人間、阿修羅、畜生、餓鬼、地獄の六道あり、生物はその業(ごう)によって輪廻すると考えられている。地獄はその最下層に位置する。
また地獄には八つの種類があるといい、
等活(とうかつ)=殺生の罪
黒縄(こくじょう)=殺生と盗みの罪
衆合(しゅごう)=邪淫の罪
叫喚(きょうかん)=殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪
大叫喚=上の四つの罪に加えて、妄語の罪
焦熱=上の五つと邪見の罪
大焦熱=上の六つと尼を犯した罪
阿鼻(あび)(または無間(むげん)=父母を殺したり、仏を傷つけたりする罪、仏法非難の罪
が八大地獄である。 さらにそれぞれの地獄に各16個の地獄がある。
|
|
菅原道真の生涯や死後の怨霊説話、北野天満宮の由来などを描いた絵巻。作者不詳。
詞書の初めに承久元年(1219)と書かれており、「北野天神縁起」のなかでは最古の作品である。
承久本の特徴は、六巻構成の菅原道真の生涯と怨霊の話の後、二巻にわたる長い六道絵が付属していることである。
北野天神縁起 / 岡崎一直撮影 ; : 天地人. -- [影印版]. -- 吉見資胤, 1902.6. -- 3軸 ; 25cm.
資料番号:2188396~8 所在:貴重 請求記号:721.2||Ok||1~3
明治35年(1902)、北野天満宮千年祭に際し、宮司吉見資胤が作成した複製。
北野天神縁起 / 小松茂美, 中野玄三, 松原茂執筆. -- 中央公論社, 1978.10. -- (日本絵巻大成 / 小松茂美編 ; 21).
資料番号:20618186 所在:3階M3 請求記号:721.2||3
|
餓鬼草紙 ; 地獄草紙 ; 病草紙 ; 九相詩絵巻 / 秋山虔 [ほか] 執筆. -- 中央公論社, 1977.3. -- (日本絵巻大成 /
小松 茂美編 ; 7).
資料番号:20618049 所在:3階M3 請求記号:721.2||3
地獄草子
平安時代末期に作られた地獄を描いた絵巻。4巻と摸本2巻が存在している。
いずれも詞書が平易な内容で、しかも読みやすい書体で書かれており、絵もまた明瞭に絵画化している。経文をこのようにわかりやすい絵巻にして民衆を教化していた。
六道絵 / 宮次男. -- 至文堂, 1988. -- (日本の美術 ; 271).
資料番号:21520082 所在:移動書架B13 請求記号:702.1||63||271
往生要集 : 最明寺本 / [源信著] ; 築島裕 [ほか] 編 ; 影印篇. -- 汲古書院.
資料番号:30154148 所在:3階U4 請求記号:188.63||2||1
最明寺本往生要集とは
神奈川県の古刹最明寺に伝わる平安時代の写本全三帖。全巻完備の古写本としては現存最古。
『往生要集』は源信が寛和元年(985)に著した仏教書で、往生浄土の道を説くために様々な経典を引用したもの。天台浄土教の入門書として広く読まれた。
源信は極楽に行く方法を教えるにあたり、かなり詳しく地獄の様子を描いている。
「初めに等活地獄は、この閻浮提(エンブダイ)の下、一千由旬(ユジュン)に在り。たて広さ一万由旬なり。この中の罪人、互いに常に害心を懐きて、もしたまたま相見ては猟者の鹿に逢えるがごとくして、それぞれ鉄の爪をもって互いにつかみ裂く。血肉すでに尽きてただ残りの骨(の)みあり・・・」
|
|
|
キリスト教の地獄
『新約聖書』では、神を認めず主イエスの福音に従わない者は、永遠の滅びに至る罰を受けると説き、こうした初期キリスト教の思想のもとに、中世カトリックでは死後の審判という思想が流行した。
またカトリックの教理では、天国と地獄の中間に、小罪を犯した死者の霊魂が天国に入る前に火によって罪の浄化を受けるとされる煉獄(れんごく)が設けられた。ダンテの『神曲』は、地獄、煉獄、天国の三界遍歴を主題にしている。
Dante : con l'espositione di Christoforo Landino, et di Alessandro Vellvtello,
sopra la sua comedia dell' Inferno, del purgatorio , & del paradiso
/ con tauole, argonienti, & allegorie, & riformato, riueduto, &
ridotto alla sua uera lettura, per Francesco Sansovino. -- Appresso Giouambattista,
1564. (ダンテ:クリストフォロ・ランディーノとアレッサンドラ・ヴェルテッロ注釈付 神曲)
資料番号:30532090 所在:貴重 請求記号:971||Da
15世紀には、ダンテの『神曲』の注釈書が15種類も刊行されたが、そのほとんどは文章だけのものだった。
1544年、アレッサンドロ・ヴェルテッロは、当時一番人気があったクリストフォロ・ランディーノの注釈書をわかりやすく書き直し、豊富な絵をつけて刊行した。
甦るミケランジェロ : システィーナ礼拝堂 / [アンドレ・シャステルほか執筆]. -- 日本テレビ放送網, 1987.
資料番号:21130502 所在:1階C1 請求記号:723.37||11
最後の審判
『新約聖書』の黙示録には、世界の終末にキリストが再臨して、人類の罪を審判し、生者および死者が天国と地獄に分けられる という教義があり、それを主題にたくさんの絵が描かれた。
右側下部では、罪人たちが天に昇ろうと試みるが、悪魔に引っ張られたり天使たちに阻止されたりしている。
左側下部は死者が復活して天国に昇るものもいる。
一番右下にいるのが、死者の魂を裁判する地獄の王ミノス。舟に乗り櫂を振っているのは、死者の魂を地獄へと渡すカロンで、これはダンテの『神曲』から得ている。 |
|
冥界の審判者たち
ミノス(Minos)
ギリシア神話のミノスはゼウスとエウロペの子で 、死後冥界で死者の生前の行いを裁く判官となった。
尻尾を死者にムチ打ち、尻尾が何巻したかで罪の重さを測る。
神曲 / ダンテ原作 ; ギュスターヴ・ドレ挿画 ; 谷口江里也訳・構成. -- アルケミア, 1996.12.
資料番号:30529076 所在:3階P16 請求記号:971||Da
|
閻魔(えんま)
閻魔は梵語のヤマの音写で、焔摩、夜摩などとも書き、古代インド神話では、ヤマは人類最初の死者とされ、地下の奈落(地獄)の主となり、死者の生前の罪を裁く法王となった。
チベット密教壁画 / 丹上隆雄写真 ; 長尾雅人〔ほか〕著. -- 駸々堂, 1978
資料番号:20766498 所在:3階M8 請求記号:702.098||4
(左ページ)チベット仏教の六道図と、それを持つヤマ
(右ページ)ヤマーンタカ=ヤマも殺すもの
焔摩天(閻魔天)
ヤマが仏教にとりこまれて焔摩天と呼ばれ、運命、死、冥界を司る天部となった。人面杖を持ち、水牛に乗る。
平安仏画 : 日本美の創成. -- 奈良国立博物館, 1986.
資料番号:21030758 所在:1階T6 請求記号:069.9||3
|
閻魔大王
中国に閻魔(ヤマ)が伝わると、道教と融合し閻魔大王として地獄の主とされるようになった。
やがて、唐の時代に十王信仰と結び付けられ、地獄の裁判官の中心的な存在となった。現在よく知られる唐の官人風の衣装はこのときに成立した。
暁斎妖怪百景 / [河鍋暁斎画] ; 京極夏彦文 ; 多田克己編・解説. -- 国書刊行会, 1998.7.
資料番号:30782099 所在:3階M8 請求記号:721.9||Ka
河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)1831-1889
幕末-明治時代の日本画家。歌川国芳に入門、のち狩野派に学び、狂画・浮世絵・戯画その他に多彩な活動を展開した。
|
アヌビス
エジプトの冥界の審判。 右側の秤には真理の女神マアトの羽根が、左側には死者の心臓が乗っており、魂(心臓)は罪が重いと重くなると考えられていた。
軽ければ死者はオシリス神の治める死後の楽園アアルへ行くことができ、重ければアメミットに魂を喰われ、二度と転生できなくなる。
秤を持つのがアヌビス。右端の動物がアメミット。顔がワニ、鬣と尾と上半身がライオン、下半身がカバ。
エジプト・大ファラオの帝国 / 吉村作治, NHK取材班責任編集. -- 日本放送出版協会, 1990.11. -- (NHK大英博物館 ;
2).
資料番号:30171909 所在:1階T6 請求記号:069||47B||2
古代エジプトでは、『死者の書』を副葬品にして死者と一緒に埋葬した。
美しい文字や挿絵で彩られたパピルスには、死者があの世で困らないようにするための指南などが記されてた。
|
|
イスラム教の地獄
イスラム教では、この世の終末に神による審判がある。
生前の信仰や行為がすべて記録されている帳簿が手渡され、秤にかけられる。秤が重く下がった者は「緑園」(イスラム教の天国)に、秤が軽くはね上がった者は、地獄に落とされ、それぞれ相応の報いを受ける。
コーラン / 藤本勝次責任編集. -- 中央公論社, 1970.9. -- (世界の名著 ; 15).
資料ID : 20243777 所在 : 1階T6 請求番号 : 080||4||15
15章43-44節「本当に地獄こそ、かれら全ての者(悪魔の誘惑に従って、邪道にそれるような人々)に約束される場所である。 それには七つの門があり、各々の門には、かれら(罪びと)の一団が割り当てられるのである」
ユダヤ教
旧約聖書では来世について明白に述べていない。そのため一般にユダヤ人は死後の世界を強調しない。最後の審判の時にすべての魂が復活し、現世で善行(貧者の救済など)を成し遂げた者は永遠の魂を手に入れ、悪行を重ねた者は地獄に落ちると考えられている。
|
|
参考文献
死後の世界 / 渡辺照宏著. -- 岩波書店, 1964.-- 204p ; 17cm. --(岩波新書 青版 ; 351).
資料ID : 20012762 所在 : 3階Q文庫本 請求番号 : 081||17
地獄と極楽 : 東アジアの芸術・芸能にみる. -- 勉誠出版, 1999.11. -- 159p ; 21cm. -- (アジア遊学 ; No.10).
資料ID : 30412774 所在 : 3階M16 請求番号 : 382||58
異界万華鏡 : あの世・妖怪・占い / 国立歴史民俗博物館編. -- 国立歴史民俗博物館, 2001.7. -- 207p : 挿図 ; 30cm.
資料ID : 72000762 所在 : 図録等 請求番号 : 380||Ko
地獄絵 / 奈良国立博物館編. -- 奈良国立博物館, 1994. -- 47p ; 26cm.
資料ID : 21524004 所在 : 図録等 請求番号 : 721.2||19
目でみる仏像事典 / 田中義恭, 星山晋也著. -- 東京美術, 2008.1. -- 785p, 図版 [8] p : 挿図 ; 21cm.
資料ID : 30837522 所在 : 3階M8 請求番号 : 718.1||Ta
死者の書 : 古代エジプトの遺産パピルス / 矢島文夫文 ; 遠藤紀勝写真. -- カラー版. -- 社会思想社, 1986.
資料ID : 21052439 所在 : 3階N20 請求番号 : 242||3
常識として知っておきたい世界の三大宗教 : 仏教・キリスト教・イスラム教 / 歴史の謎を探る会編. -- 河出書房新社, 2005.2. --
220p ; 15cm. -- (KAWADE夢文庫).
資料ID : 30645356 所在 : 3階U4 請求番号 : 165||Re
インド神話 / ヴェロニカ・イオンズ著 ; 酒井傳六訳. -- 青土社, 1993.
資料ID : 30163058 所在 : 3階U4 請求番号 : 164.25||2
|
|