展 示

⇒こちらは展示一覧






■2007年 コスモス祭



Fun with Herbs! ―期間限定!離宮公園のハーブがやってきた―

 場 所 : 神戸女子大学図書館 2Fロビー
 日 時 : 11月15日~16日


1  はじめに
2   ハーブの歴史と文化 Ⅰ
3   ハーブの歴史と文化 Ⅱ
4   日本のハーブ
5   小説の中のハーブ
5   ハーブで染色



1.はじめに

ハーブ(herb)は、元来ラテン語で草本性の植物(herba)、つまり草を意味していますが、一般にハーブという場合、特にヨーロッパでは、薬草やスパイス等として有用な草を指します。広辞苑などでは、「薬草・香料とする植物の総称」とあります。

今では葉だけではなく植物の実・皮・葉・根や木までもがハーブと呼ばれています。つまり人々の生活の役に立つ植物すべてを「ハーブ」と呼んで、料理・お茶・薬・アロマ・香水・化粧品などに利用しています。日本茶、ワサビ、樟脳(防虫剤)なども広い意味でハーブの仲間です。

ハーブはそれぞれの風土にあった利用の仕方で、世界中の家庭に浸透しています。美容成分のあるハーブは化粧品や入浴剤などに用いられ、香りのあるハーブは精神安定効果をアロマやキャンドルを利用して使われています。もちろん料理の味や香り付けにハーブが食卓に上らない日はないでしょう。
 

 
2.ハーブの歴史と文化 Ⅰ
 その歴史は古く、古代エジプトではヤグルマギクやケシの仲間が栽培された薬草園がありました。ハーブは薬用・食用・染色だけでなく、その芳香が神への捧げものとしてとても重視されていたのです。また、ミイラ作りの防腐剤としても欠かせない材料のひとつでした。

 その後、エジプトからギリシャにハーブが広まり、紀元前594年には、香料に夢中になり過ぎたギリシャの人々の熱を冷ますために、香料禁止令が出されたほどでした。この頃のアテネでは、数百もの香料職人が複数種の香料を売っていました。
 ローマ時代には、博物学者プリニウス( Gaius Plinius Secundus A.D.25~79)が、『博物誌』(Naturalis Historia)に、植物からとれる薬剤や効能などについて6巻にわたり詳細に記しています。


展示図書
 ミイラ : ミイラ考古学入門 / アンジュ=ピエール・ルカ著 ; 羽林泰訳. -- 佑学社, 1978(1986).
  30032934  242||49    3階N20
 Mummy / written by James Putnam ; photographed by Peter Hayman. -- Dorling Kindersley, 1993. -- (Eyewitness guides ; 44).
  30270404  209||10||44  2階K4

ミイラは、心臓以外の内臓を取り出した後、腹部をパーム椰子の酒(ワイン)でよく洗浄し、それから防臭剤・防腐剤として、没薬、肉桂、その他の香料がつめられた。
その後、シダーウッドなどをしみ込ませた包帯で巻き、においの強いゴムをこすりつけて作られた。
1922年に発掘されたツタンカーメン王(紀元前1350年頃)の墓にあった壷には、バルサムの軟膏が入っており、3200年以上を経た発掘時でも、芳香を放っていた。

 プリニウスの博物誌 / 〔プリニウス〕著 ; 中野定雄〔ほか〕訳. -- 2. -- 雄山閣, 1986.
  21044465  031||13||2  2階K1

プリニウス( Gaius Plinius Secundus ; A.D.25~79)は、ローマ帝国の海外領土総督歴任中に、『博物誌』(Naturalis Historia)を著わした。
動物学・植物学・医学・薬学・鉱物学・農学・天文学・地理学などの自然科学を中心に、人類学・歴史・芸術学を網羅した全37巻、項目数2万の百科事典である
 
3.ハーブの歴史と文化 Ⅱ
 聖書の中にもハーブは数多くでてきます。
キリストが生まれたとき、東方から訪ねてきた三博士が「黄金、乳香、没薬」を贈り物としたのは有名ですが、『出エジプト記』にも、エホバがモーゼに、オリーブオイルに没薬、シナモン、菖蒲、桂皮を入れて佳香にあふれるアロマオイルを作り、祭壇に塗って聖なる場所にせよ、と命じている場面があります。

 中世になると、多くの修道院で病気の治療用としてハーブが栽培されました。ヨーロッパ中世を襲ったペストの蔓延を救ったのもハーブでした。

 エリザベス1世朝のイギリスでは、ギリシャ・ローマ時代の処方箋をもとにポプリや香水作りが流行しました。貴族たちは館に香料を手作りする「スティル・ルーム」を持ち、メイドに香水を調合させました。
一方、フランスでは、16世紀にメディチ家がグラースに香水工場を造り、以降この地は香水の中心地になります。また香水の搾りかすに花を混ぜたポプリは、フランス革命の頃まで、上流階級の間で流行しました。


展示図書
BIBLE IN LATIN : Biblia pictvris illvstrata , Paris 1540.
(絵入り聖書)


 聖書の中にもハーブは数多くでてくる。
 キリストが生まれたとき、東方から訪ねてきた三博士が「黄金、乳香、没薬」を贈り物として捧げたのは有名だが、『出エジプト記』には、次のような記述がある。
「エホバ、モーゼに言いたまいけるは、汝また重だちたる香物を取れ。すなわち浄き没薬500シケル、香ばしきシナモンその半ば250シケル、香ばしき菖蒲250シケル、桂皮(カッシア)500シケルを、聖書のシケルに従いて取り、またオリーブの油1ヒンを取るべし。汝これをもて聖なる灌香を作るべし」
オリーブオイルに没薬、シナモン、菖蒲、桂皮を入れて佳香にあふれるアロマオイルを作り、祭壇に塗って聖なる場所にせよ、と命じているのである。
また、イエスの死体を葬る際も、
「ニコデモ没薬、アロエの混合物を百斤ばかり携えてくる。ここに彼らイエスの死体をとり、ユダヤ人の葬りの習慣に従いて、香物とともに布にて巻けり」(『ヨハネ伝』)と、葬祭にはアロマオイルが欠かせなかったようだ
修道院の中のヨ-ロッパ : ザンクト・ガレン修道院にみる / ヴェルナ-・フォ-グラ-編 ; 阿部謹也訳. -- 朝日新聞社, 1994.11.
  
30278066   702.099||4   3階M6

 ザンクト・ガレン修道院の平面図(825年)に「小薬草園」が確認できる。
 区画されているところから、いろいろな種類に分けて栽培されていたことがわかる。隣接して「医師の家」「施療院」が見られる。
 8世紀から13世紀の約600年の間、修道院では、植物の治癒力に基づいた治療法が行われ、古い書物を紐解き、実験を重ねながら 人々に役立つ自然療法を体系化していったようだ。
 修道院の庭で育てられた薬用植物に関する知識は、今なお受け継がれている。


英国のカントリー・ハウス : 貴族の生活と建築の歴史 --下/ マーク・ジルアード著, 森静子・ヒューズ訳. -- 住まいの図書館出版局, 1989.
  30173484  523.33||7||2   2階K4

 スティル・ルーム(蒸留室)とは、かつて館の女性たちが薬品や化粧品を作り時に用いた部屋のことである。
 スティル・ルームがカントリー・ハウスに初めて現れたのは16世紀ごろで、17世紀になって普及しはじめた。
 館には宴会のときに使う強壮剤(エリザベス朝の時代の意味で)、薬、香料を蒸留するために、蒸留器をそなえており、蒸留は一家の女主人や侍女にふさわしい技能や趣味と考えられていたのである。
 その後、医者や薬剤師を使うことが多くなり、自家製の薬の重要性は減り、ヴィクトリア朝期にはスティル・ルームは、ハウスキーパーがデザートを作る部屋となった。


The Englishwoman's domestic magazine.(Reprint) -- Vol. 1 (1852)-v. 4 (1856). -- Eureka Press, 2005.
  30588981  P367||2   地下F19

 前年には万国博覧会が開催され、ヴィクトリア朝文学が成熟期を迎えようとしていた1852年に、ロンドンのビートン社から発行された女性雑誌。発行後4年の1856年には5万部のベストセラーとなり、ヴィクトリア朝女性の人生、生活観、価値基準、倫理観、感性、美意識の育成にはかりしれない影響力を及ぼした。
 ファッション・マナー・裁縫・化粧・ガーデニング・料理レシピ・文学・医療・法律アドヴァイス等々の毎号を飾る記事が若い女性の人気の的で、ハーブは毎号、[The Toilette](化粧)の項で紹介されている。ハーブ化粧水を使ったそばかすの取り方、かさかさ唇の治し方、シャンプーなど、生活の中にハーブが溶け込んでいるのが感じられる。

 
4. 日本のハーブ

展示図書
古事記 : 国寶眞福寺本 [複製] – 1943. 
  21883057  913.2||Ko||1   2階貴重

 古事記には、有名な「因幡の素兎(いなばのしろうさぎ)」にハーブを使う話が出てくる。
 ワニをだまして海を渡ろうとしたウサギが、皮を剥がれて苦しんでいたところ、大国主命(おおくにぬしのみこと)が通りかかり、蒲(ガマ)の花粉を傷跡に塗ればいいと教える。
枕草子 / 増田繁夫校注. -- 和泉書院, 1987. -- (和泉古典叢書 ; 1).
  21279348 914.3||47 3階N1

 「枕草子」には、紅梅や橘など多くの香りが登場する。
 また、牛車に踏みにじられた蓬(ヨモギ)の香りを楽しんだり、(第204段)、五月に軒にかけた菖蒲(ショウブ)を、秋になって引っ張ってみると、五月の香りがまだ残っていて素敵だと言ったりするなど(第206段)、さながら現代のポプリである。


昼夜重宝記 / 安永七年 /  大坂 柏原屋清右衛門他
 【一 -2-16】 (2179345)  2階貴重

 見返しに「昼夜重宝記世に行る事尚し 其書たるや行住座臥切要の事を遍くのせて実ニ人間昼夜の重宝なり」と記すとおり、内容は四季の異名や文字の事から茶道、華道、料理、薬方に至るまで日常生活に関わる多彩な知識が45項目にわたって記されている。
 「料理献立」や「諸薬加減方」にハーブが食材や薬としてふんだんに使われている。
操草紙 / 淡海子著 明和8年(徳川文藝類聚第1巻 -- 国書刊行会, 1914)
  2079399 918.5||1 1階C12
千代の友鶴 / [製作者不明] , 天和2年(新編稀書複製会叢書 第34巻. -- 臨川書店, 1991)
  30125773  918.5||8||34 1階C12

 伽羅はもともと沈香木の最高級品のことをさしていたが、江戸時代は、そこから転じて、よいものをほめて「伽羅」というようになった。そのため、「伽羅の油」とは伽羅木の油ではなく、極上の匂いのするびんつけのことをいう。
 伽羅の油の始まりは、摂津の国兵庫の津の五十屋東見という人が、ちくらが沖(島の名)でとれる菘(スズナ)と蝋を混ぜて髪の油を作り、広く販売していたところ、京都の久吉という人が、この油に麝香(じゃこう)、鶏舌(クローブ)などの薬種を加え、「伽羅の油」と名づけて広めたということが『操草紙』に書いてある。
 そのほかにも、唐蝋、胡桃の油、丁子、甘松、竜脳、麝香、白檀を混ぜ合わせるなど、各店秘伝の製法があるようだ。
4. 小説の中のハーブ

展示図書
 アンの友達 / モンゴメリ [著] ; 村岡花子訳. -- 新潮社, 1957. -- (新潮文庫 ; 新潮文庫 ; 赤-113-D).
   個人蔵

 『赤毛のアン』に始まる10冊のアンシリーズ4冊目。ここには「オリビア叔母さんの求婚者」にポプリを作る場面がでてくる。
 当時ポプリという言葉がなかったので、村岡花子は、「 いろいろの花の花びらを集めて香料と混ぜ壺に入れたもの。室内を薫らすために使う」と註を入れ、苦心したあとが見られる。
 ピーターラビットのおはなし / ビアトリクス・ポター作・絵 石井桃子訳.
   30057753   726.5||46-1   3階M5
 A treasury of peter rabbit and other stories / Potter, Beatrix.
   20809980   931||638     1階D15

 お百姓のマクレガーさんから命からがら逃げ出し、やっとのことで家に帰ってきたピーター。おかあさんは、おなかが痛くなったピーターのためにかみつれの薬を飲ませる。
 原文では、「not very well」。おなかが痛いとは書いていない。また、かみつれの薬の原文は「camomile tea」で、石井桃子の1971年の訳だが、現在ではカモミールティの方が通じるにちがいない。


失われた時を求めて / マルセル・プルースト著 ; 鈴木道彦訳. -- 上. -- 集英社, 1992.
  30328471  953||33||1   3階P16
 
 主人公はリンデンティ(菩提樹のお茶)に浸したマドレーヌを口にしたとたん家族の思い出を蘇えらせ、それを契機に、自らの生きてきた歴史を記憶の中で織り上げていく。
 匂いが記憶を呼び覚ますことを「プルースト効果」「プルースト現象」と呼ぶのは、この小説に由来している。

薔薇の名前 / ウンベルト・エーコ著 ; 河島英昭訳. -- 上, 下. -- 東京創元社, 1990.1.
  3052928  973||Ec||1  3階P16

 殺人事件の起こった修道院で、主人公が、薬草の研究をしている修道士を訪れる。
 薬草係詰所の様子や、修道院では薬草を栽培していたばかりでなく、各地から収集していたこと、また、薬草の効能などが書かれている。

 
5. ハーブで染色
<草木染>

古来、人間は様々な自然のものを利用して、染色を行っていました。日本でも少なくとも奈良時代には、かなり高度な染色の技術を持っていたようです。近代における化学染料の普及で一時はかなり、自然の染料による染色は衰退しましたが、近年、再び、見直されてきています。草木染の特徴としては、同じ植物を使っても、場所・季節・方法などにより、千差万別の色に染まること、単純な化学染料で染めた色と違い、複雑な色素がからみあっているため、どのような色とでも融け合うことのできる色であることがあげられます。また、材料を探して野山を歩き、枝や葉や草に触れながら準備をし、その植物の香りを嗅ぎながら染液を取ったり染めたりし、自然に包まれた時間を過ごすことができます。

展示図書一覧はこちら
当日の風景

       
    


                  HOME  TOP                                             
Copyright (C) 2004 KOBE WOMEN'S UNIVERSITY LIBRARY. All Rights Reserved.
| お問合せ先とアクセスマップ |